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福岡地方裁判所小倉支部 昭和46年(ワ)422号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕二、事故の発生

裕司が原告ら主張の日時場所において発生した本件事故(編注、四六年四月三日午後三時三〇分頃後記小学校プールに転落の事故)により死亡したことは、当事者間に争いがない。

<証拠>を総合すれば、本件事故の経過としてつぎの事実を認めることができ、これに反する証拠はない。

霧ケ丘小学校は、同年三月二四日から四月四日まで春休みであり、休み中は校門を閉鎖し、部外者の校門立入りを禁止していたが、運動場に面した南門の門柱と隣りの人家との間に隙間があり、そこから自由に出入りできるようになつていて、学校側もそれを黙認していたので、近所の人達が買い物等の近道として校内を通り抜け、あるいは、他に適当な遊び場のない付近の子どもらが、右の隙間から校内に入り、運動場で遊ぶことが多かつた。原告らの家は右南門から二〇メートル離れたところにある関係上、裕司もよく学校で遊んでいた。裕司は事故当日午後一時すぎごろ一人で自宅から遊びに行き、最初は自宅裏アパート付近で遊んでいたが、その後霧ケ丘小学校へ行き運動場で遊んでいるうちに本件プール場に入り、前記事故に遭遇した。裕司がプール内に入つた経路は目撃者もいないので明らかではないが、当日はプール入口の扉は施錠されており、わずか三才九ケ月の幼児が高さ1.7メートルの金網を乗り越えてプール場内に入つたとは考えられず、また、別紙図面(D)点の金網の上部は最もたるみの多い所で上の横枠との間が二〇センチメートルしかなく、下部の金網も事故前から下の横枠に八番線の針金でとめられていたのであるから、右(D)点から入ることも不可能であつたということができ、結局その他の金網の破れ目等から入つたというべきところ、別紙図面(A)(B)点の更衣室の壁と金属ボールとの間は一四センチメートルの隙間があり、児童が通り抜けられたこと、(A)点の金網が上下とも大きく破れ、児童の出入りが可能であつたこと、(A)点からプール場内に入り裕司を発見した白浜幸則はプール内に入つたボールをとりにいくときは(A)点を利用することが多く、またときどきは(B)点を利用していたこと、(C)点には幅四六センチメートル、深さ一六センチメートルのU字型側溝があり、幼児がそこからプール場内へ入れないでもないこと等にかんがみれば、裕司は、(A)点から入つた可能性が最も高く、そうでないとしても(B)点か(C)点であるということができる。

二、責任原因

そこで、本件プールの設置または管理に瑕疵があり、本件事故がこれにより発生したか否かについて判断する。

(一) 本件プールの設置状況

本件プールは、霧ケ丘小学校運動場の東南隅に児童の教育用として設置せられたものであり、その周囲には危険防止のため金網が設置されていることは、当事者間に争いがない。

<証拠>によれば、つぎの事実を認めることができる。

本件プールは東西八メートル、南北二五メートルであり、プールサイドは平板ブロックで舗装されている。プールの上面は校庭より1.1メートル高くなつている。プールの周囲は1.8メートル間隔に高さ1.9メートルの金属ポールがが立てられ、それに高さ1.7メートルの金網が張られている。プールの出入口は北側に一箇所あり、開き戸式の扉になつていて、プールを使用しないときは施錠されている。入口を入ると足洗場があり、そこから階段を上るとプールサイドとなつているが、足洗場と階段の間には東西に走る排水溝が設置され、幅四六センチメートル、深さ一六センチメートルのU字型側溝より成つていて、プール西側の金網の外に沿つて南へ続いている。金網の東北隅はブロックで建てられた更衣室があり、前記のようにその壁と金属ポールとの間に一四センチメートルの隙間があつた。また、プールの北側にはジャングルジム、南西には肋木があり運動場の南西周辺には鉄棒、ブランコ、滑り台等の遊戯施設が設置されていた。

(二) 本件プールの管理状況

<証拠>を総合すれば、つぎの事実を認めることができる。

本件プールは、霧ケ丘小学校において毎年六月下旬から九月中旬ごろまで、同校の児童と教員の水泳指導のため使用され、右以外の期間および右以外の者に対しては使用されることはなかつた。(但し、プール内の水は消防署の命により防火用水を兼ねているので一年中入れられていた。)前記のように本件プールは周囲を金網で囲われ、出入口は北側に一箇所しかないが、プールを使用しないときは右入口に施錠し、鍵を同校体育主任山田英剛が保管することにより、児童が勝手にプール場内に入らないよう管理していた。もつとも児童の中には運動場で遊んでいてボールがプール内に入つたとき、ボールをとりに金網を越えたりしてプール場内に入るものがいたので、児童朝礼等の機会に右のような場合、プール場内に勝手に入らず、右山田あるいは同校体育委員まで連絡するように注意していた。

つぎに、金網等プールの施設の点検は定期的にやることはなく、右山田が排水溝等にゴミがたまつたとき掃除をかねてみる程度であつた。同校は同年三月二四日から四月四日まで春休みであつたが、右山田は、三月二五日金網等の点検をし、別紙図面(A)点の金属ポール付近の金網が破れているのを発見し、上の方の破れた部分を引き上げ細い針金でとめた。同校校長加治保則は、事故前日の四月二日本件プールの近くを通つた際、右(A)点の金網の破れに気づいたが、同人が気づいた程度の破れからでは、児童幼児らがプール場内に立ち入ることはないものと考え、そのまま通りすぎた。しかし、事故当時は右(A)点の金網は上下とも大きく破れ、子供らが自由に出入りできる状態であつた。また同図面(D)点の金網も上部が破れてたれ下がつていた。事故後、右図面(A)、(B)点の更衣室の壁と金属ポールとの間に木材のポールを建て、(A)、(D)点の金網の破れに有刺鉄線を巻きつけ、右各箇所からプールに入れないようにし、さらにプール周囲の金網の上部に有刺鉄線を巻きつけた。

なお、同校では、休み中近所の子供らが運動場を遊び場としているのを黙認しており、なかには幼稚園にも行つてない幼児が保護者の付添もなく遊びに来ていたのであるが、休み中は校長と代表勤務として輪番で一名の教員が登校し、右教員が校内を巡視する際プール場内に人が入つていないかどうかを確認する程度で、それ以上の監視、点検は行われていなかつた。

(三) ところで公の営造物の設置または管理の瑕疵とは、当該営造物がその種類に応じて通常有すべき安全的性状または設置を欠いていることである。

これを本件について前記認定事実によつてみるに、本件プールは、霧ケ丘小学校児童の水泳指導用として設置せられたもので、その設置の目的、場所的環境および利用状況よりして水泳指導時以外に通常予想されうる唯一の危険は、児童、幼児らのプールサイドからプール内への転落事故であるから、被告としては、右危険を除去し、プール場内への立入りを防止するに足りると認められる程度の設備等をしなければならないというべきであり、右を欠く以上瑕疵があるといわなければならない。ところで本件プールの周囲には高さ1.7メートルの金網が設置され、唯一の出入口である北側入口の扉はプールを使用しないときには施錠されていて、プール場内への立入りは一応防止されていたということができるが、プール東北隅の更衣室の壁と金属ポールとの間には別紙図面(A)、(B)点のように一四センチメートルの隙間があり、(C)点の側溝は幅四六センチメートル、深さ一六センチメートルあり、また、事故当時には右(A)点の金網は上下とも大きく破れていたのであつて、右いずれからも児童、幼児らはプール場内へ出入りできたのであり、他方、同校運動場には休日においても付近の子供らが遊びに来ており、とくに幼児の中には保護者の付添もなく一人でくるものもいたうえ、学校側もそれを黙認していたのであり、さらに、同校生徒の中には運動場で遊んでいてボールがプール内に入つた場合、金網を乗り越えたりしてプール場内に入る者がいたので同校関係者においても注意していたほどであるから、判断力に乏しく危険な行動に及びがちな児童幼児らが同校運動場で遊んでいるうちにプール金網に近ずき、前記隙間等からプール場内に入る者がいることは当然予測すべきであつて、被告としては、右児童らが本件プール場内へ立入らないよう、前記隙間をふさぎ、金網の点検修理等をすべきであり、これを放置していたことは、本件プールの設置または管理に瑕疵があつたものといわなければならない。

そして以上認定の諸事実によれば、本件事故は右瑕疵によつて発生したものというべきであるから、被告は国家賠償法二条一項によつて裕司および原告らに生じた後記損害を賠償する責任がある。<中略>

六、過失相殺

本件事故の発生につき原告らに裕司の監督義務者として過失があつたことは、当事者間に争いがない。そして民法七二二条二項にいわゆる被害者に右監督義務者が含まれることは明らかであるから、原告らの本件事故に対する過失割合について判断する。

前記のとおり、裕司は、事故当日午後一時すぎごろ一人で家を出て遊びに行き、霧ケ丘小学校運動場で遊んでいるうちに本件プールの金網内に入りこみ、同日午後三時三〇分ごろ本件事故に遭遇したもので、成立に争いのない甲第一、二号証、検証の結果、証人塩津久美子、同藤本睦子の各証言、原告加藤万里本人尋問の結果によれば、原告加藤裕子は、事故当日、裕司が一人で家を出て本件事故の知らせを受けるまで約二時間三〇分の間、裕司を放置し見回わりにも行かなかつたこと、原告らにおいて、裕司が主として遊び場にしていた霧ケ丘小学校には本件プールがあり、子どもらが別紙図面(A)(B)点等から金網の囲いの中に入つて遊んでいるということを聞き、裕司に右のようなことをしないよう注意していたことが認められ、以上の事実を総合すれば、事理弁識能力のないわずか三才九ケ月の幼児を長時間霧ケ丘小学校運動場で遊ばしておけば、本件プールに近ずき、別紙図面(A)(B)点の隙間等からその中に入り、プールサイドからプール内に湛えられた水中に落ちるおそれのあることは当然予想しうるところであるにもかかわらず、前記のように長時間放置していた原告らの監督義務者としての過失は大きなものがあること、その他、本件プールの設置および管理の瑕疵の程度、本件事故の態様等諸般の事情を考慮すれば、原告らの本件事故に対する過失割合は七割をもつて相当と認める。

(矢頭直哉 三村健治 神吉正則)

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